チャイナ・リスク

「中国政府は民主への圧力が増す日本の常任理入りは断じて阻止したい。」らしい。

 中国共産党言論統制を批判したため、最近、事実上国外に追放され、渡米した元北京大学助教授の焦国標氏が反日デモに関し、産経新聞に寄稿した。氏は、日本の国連安保理常任理事国入りを恐れる中国当局がデモを操ったとの見方を示している。

 最近の反日デモについて、中国外務省は民衆の自発的行動だという。しかし、民衆が本当にうらんでいるのは一党独裁政治だ。なぜ、党委員会や党中央宣伝部を打ち壊しに行かないのか? それは、今回の反日デモは中国政府の監督とコントロールによるもので、その目的は日本の常任理事国入りの阻止にある。

 なぜ中国は日本の常任理入りを恐れるのか。日本が常任理で、米国と手を携えて民主・自由・人権の旗を掲げ、中国などそれと敵対する国に圧力をかける米国の戦略に協力するとみているためだ。そうなれば中国は国連で浮いてしまう。

 中国が、歴史問題などでの日本の態度を反日の起因としているが、西太后から胡錦濤に至るまで、歴史問題に関心を持った指導者はいない。彼らの真の関心事は非合法な政権の存続であり、それを妨げる要素は何かだった。今、一党独裁存続の最大の脅威は、人民の民主・自由・人権の要求が高まることだ。

 中国政府は民主への圧力が増す日本の常任理入りは断じて阻止したい。その真意を隠して、愛国主義民族主義の旗を振り、反日感情を盛り上げた結果が今度の騒動だ。中国政府は民意をコントロールして、自発的デモのように見せ掛け、人民が独裁政権を擁護するように仕向けた。実に巧妙な手口だが、結果的には国際社会の同情と支持、尊敬をも失った。

 今回の騒ぎは「五四運動」(1919年の反日示威運動、軍閥政治の打倒につながり革命の転換期となった)の初期に似ている。日清戦争は戊戌(ぼじゅつ)変法(19世紀末の改革運動)を招き、抗日戦争は蒋介石政府の崩壊につながった。日本は常に中国政変の触媒になってきた。今回も、国内政治に多少のインパクトを与えたのではないか。

 日本人に言いたい。中国に民主・自由・人権がなければ、日本だけでなくアジア全体が安心して暮らせない。中国とのビジネス、金もうけのみを考えていると、遅かれ早かれ大損をする。日本人には中国の民主化にもっと関心を持ってほしい。

 歴史への対応では、日本はドイツには劣るが、中国より数倍もよい。中国の新聞や教科書における歴史の歪曲(わいきょく)、改竄(かいざん)、美化は、日本とは比較にならないほどひどい。政権への批判をそらし、非民主政治を存続させるためだ。中国の改革派が当面、影響力を発揮するのは難しいが、国際社会の関心と圧力が増せば、政治改革促進の助けとなるだろう。(ワシントンにて)

≪焦国標氏≫

 1963年、河南省生まれ。中国人民大学で新聞博士号をとり、文化省機関紙「中国文化報」で記者、編集者などを務めたのち2001年から北京大学新聞・マスコミ学院助教授。昨年4月にネット上に発表した論文「中央宣伝部を討伐せよ」で、中国共産党中央宣伝部言論統制が中国の発展の足を引っ張っていると説き、中央宣伝部の解体を主張。今年3月、北京大学を解雇され渡米、米国民主主義全国財団に研究員として招かれワシントンの民主主義研究機関に在籍する。

【2005/04/28 東京朝刊から】