アメリカの対アジア政策

5.アメリカの対東アジア政策における戦略的思考への移行

先日の2+2の声明は突然出てきたものでは無くて、米国の戦略に密接に関連し十分な時間を掛けて練られたものだ。
以下の記事の内容が2002年6月に講演されている。

このように、国際社会における力の配分の変化が各国の外交政策の変化につながっているのです。さらにそれは、各国の戦略的思考の変化にもつながっていきます。お配りしたプリントの3点目である「戦略的思考への移行(Shift in strategic thinking)」に移っていきます。

特にアメリカの外交政策のなかでアジア政策において特筆すべき新しい現象が起こりつつあります。これは、いわゆるブルーチーム対レッドチームという表現で表すことができます。ワシントンDCにあるブルーチームの考え方が、シンクタンクや、議会の有力メンバー、その他のワシントンDC で働く専門家たちの間で大きな影響をもち、アメリカの対アジア政策に大きな変化をもたらしつつあります。要は、日本の役割をもっと強調し、中国の重要性あるいは役割というものをもっと低く評価すべきであるという見解です。もう一つの大きな変化は、より台湾寄りの政策を取るべきで、いわば反北京政府的な立場を取るべきだという見解です。このような戦略的思考の大きな変化がブッシュ体制の下で起きつつあります。

ブルーチームという言葉についてもう少し詳しく説明したいと思います。1999年にKTD財団というシンクタンクが『対アジア政策白書(Asian Policy Report)』という報告書をまとめました。この報告書は大変によくできていて今日の東アジア政策に大きな影響を与えたものです。この報告書は、アメリカはいわゆる「政治的な促し」を重視すべきだと主張しています。特に日本、韓国等の同盟国の役割を重視すべきであり、中国には当然それなりの別なポジションを与えるべきであり、中国の影響ないし立場をあまり強調しすぎるべきではない、との主張が展開されております。さらには、特に台湾は民主的な国家であるとの点から、台湾の戦略的、政治的な価値を強調し、そのような結論を導き出しています。そして、アメリカに対する提言として、アメリカは台湾が武力行為を受けた際に、アメリカが台湾を防衛することに関して、あいまいさを持たず明確にすべきであると訴えました。このレポートは、実は二人の民間人、正にブルーチームを代表する二人の登場で作られました。一人はジョン・ホプキンス大学の上級国際問題研究所の教授であるウォルフォビッツ教授、そしてもう一人がリチャード・アーミテージ氏であります。この二人のメンバーは、ジョージ・ブッシュ政権の下で大変重要なポジションにつき、またその下でジョージ・ブッシュ政権における大きな政策の転換というものが具体化されてきたのです。

次に具体的にさまざまな面で新外交政策チームのことに、再びアメリカの外交政策等を作っている面々、メンバーの紹介に入っていきたいと思います。ここにジョージ・ブッシュ政権を編成している主な閣僚の副大統領、国務長官、報道官、CIA長官などの名前を挙げていますが、これらのスタッフを見ると三つの特徴を見いだすことができます。

まず一つは、実はジョージ・ブッシュの父親で1992年まで大統領であったシニア・ブッシュ政権の閣僚の多くが、現ジョージ・ブッシュ政権に閣僚として加わっているということです。これらの人たちの特徴は、冷戦終焉時代のメンバーですので、いわゆる冷戦指向というものがまだ大きく残っているという点です。そういったメンバーがこの外交政策の中心にいることが一つの大きな特徴です。2つ目の特徴としては、この閣僚の人たちの多くがいわゆる軍事、安全保障の問題を専門とする人々で構成されていることです。副大統領のチェイニー、国務長官のパウエル等々、言うまでもなく軍事の専門家たちが並んでいます。そして3つ目の特徴が、いわゆる上級の役職ではなく、より具体的に外交政策を作っていくポジションに大変多くのブルーチームのメンバーが配置されていることです。このことについて、もう少し詳しく見ていきたいと思います。

これは現在のアメリカ国防総省の組織図です。現在の国防長官であるラムズフェルドは、しばしば「冷戦の戦士」と呼ばれる通り、冷戦指向というものが大変に色濃く残っている人物です。ここで注目すべきはナンバー2、すなわち国防副長官の立場にあるウォルフォビッツ氏、この人は先ほどふれましたKTD財団のレポートをまとめた一人ですが、ジョン・ホプキンスの上級国際問題研究所から移籍して現在の国防総省でのポジションについています。そして、現在かねてより持っていた自分のアイデアを具体化して政策に移し、二ヶ月前には、台湾の防衛担当者をフロリダに招待し、いかにして台湾の安全保障、防衛体制を強化していくのかについて議論をしています。

講演した人はこんな人。

北京大学で国際政治を専攻した後、カリフォルニア大学バークレー校にて政治学の博士号を取得。タフツ大学フレッチャーズ校、青山学院大学等で教鞭を執り、現在、アメリカン大学比較地域研究学部の教授(学部長)。ハーバード大学の東アジア研究所であるフェアバンクセンターでも準研究員を務める。

結局、日本と米国の思惑が一致したことが背景だと思うが、それ以上に重要なのは、日本を間にした米国と中国の関係だ。
米国は中国と距離を取っている、というより仮想敵国の様に認識しだしていると思う。

まるで新たな冷戦の勃発と言っていい。つまり、第二次世界大戦後の世界を二分した、ソビエト連邦を盟主とする共産主義社会主義)陣営とアメリカ合衆国を盟主とする資本主義陣営の対立構造(From Wikipedia)が、これからは中国との間で起きるのだと思われる。