中国海洋石油、ユノカル買収に向かった深層

一般的にエネルギー関連企業は国家にとっての戦略産業として位置付けられる場合が多い。そういう側面で、この企業買収について分析したレポートが、日経ビジネス社の谷口智彦の「地球鳥瞰」において、「中国海洋石油ユノカル買収に向かった深層」(1月14日発行のExpress Mailより)として報告されている。非常に的を射たレポートなので、以下に抜粋する。
http://nbexpress.jp/special/

東シナ海のパワープレーヤー


 どんな会社か双方を簡単に描いておくなら、CNOOCは日本と接する東シナ海大陸棚資源開発を手がける企業で、資源を巡る日中海洋摩擦において文字通り最前線に押し出てきた存在にほかならない。


 他方のユノカルは、2003年8月に英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルと組み、CNOOCとともに上海南方500kmの洋上、2万2000平方kmにわたる範囲の資源開発に乗り出して、日本側関係者の心胆を寒からしめた企業だった。相手が中国だけならまだしも米英企業が北京の味方についたとなると、領土未確定な水域に進出された場合利害がいたずらに錯綜すると恐れられたからだ。


 その点に気づいたか、ユノカルとシェルは2004年9月共同事業から撤退した。このたびの買収が成功した暁には、ユノカルが再び問題の水域に戻ってくるのはほぼ間違いあるまい。

▼中国流「大東亜共栄圏」?


 ユノカルの資産には北米鉱区が含まれるものの、CNOOCは買収後、これを売却してアジアの鉱区に資源を集中するだろうとの観測がもっぱらだ。ではユノカルが持つアジア資産とは何かを眺めると、それはインドネシアからタイ、ミャンマーにかけての油田ならびにガス田であって、要するに旧日本軍が進出確保しようとした南方権益そのものと言ってよい。言い換えれば中国は、日本が軍事力によって果たせなかった夢をカネの力で実現しようとしているわけである。


 これまでのところ中国側の意図を読み解く際、資源の安定確保を図ろうとするものだと見る見方が主流を占める。しかしこれには疑問を投げておきたい。本当の意図は、もっと地政学的・権力的なものではないだろうか。


 それというのは問題のアジア権益には地元消費用として地域経済に深く織り込まれているものが多く、おいそれと対中供給源に転用しづらいものが少なくないからである。


 例えばタイ。ユノカルはタイ湾上に100基のプラットホームを構え盛んに天然ガスを掘り出しているものの、出てきたガスの大半はタイへ送られ、同国の発電を支えている。実際同社がアジアで掘り出す石油と天然ガスには地元の直接消費用が多く、そのせいで売り値は国際市況価格をそのまま反映したものになりにくい。それがユノカルの低利益率につながっているとの見立てがあるほどである。


 そんな権益を手に入れて、中国は資源確保に役立てることができたと言えるのだろうか。もし言えるのだとすると、現有鉱区以外の採鉱がよほど成果を上げるのでない限り、タイやインドネシアはいざという時、自分に回るはずのガスや石油が中国へ持っていかれる事態を見越しておかねばならないことになる。

こうしたエネルギー関連企業が国家を超えて買収されるケースでは、政治問題になる事が容易に予想される。だから、今回のケースでも、すんなり買収が行えたかどうかは、実際怪しいと思う。
大東亜共栄圏」という言葉に反応する訳ではないが、日本の安全保障にとって非常に大きい意味が有ったのではないか。
要するに、この企業買収が成立すれば、ユノカルが資源供給しているタイ、インドネシアバングラディッシュミャンマーなどのアジア地域に対する中国の影響力が強大なものになると言うことだ。
中国の意図が、こういう側面に有ったのか?なんとも言い様がない。でも、日本にとっても、東シナ海大陸棚資源開発が根こそぎ持っていかれる懸念が大きくなり、容認できなかったのではないか?

 そして海上プラットホームに必ずあるのがヘリポートである。東シナ海からインドネシア、タイ、ミャンマーにかけてユノカルが持つプラットホームが中国の手中に入り、今後さらに増えていくならば、中国人民解放軍ヘリの寄港地がシーレーンに沿って100の単位で散らばることを意味する。これは米第七艦隊が提供し続けてきたシーレーンの守りに対し少なからぬ挑戦を意味しよう。それら洋上のヘリポートが構造材の補強によって垂直離着陸型ジェット機の基地にも転用し得ることは、平松茂雄・杏林大学教授がつとに指摘するところだ。

という「海上プラットホームが基地になる」という軍事的脅威も、相手が中国という事を考えれば現実的な指摘だと思う。
ところで日本企業は、ユノカルを買収できないのだろうか?

中国の海に掛ける意気込み

以下、参考までにメモ。

2003年5月の国務院による<全国海洋経済発展プラン>は、中国政府が海洋経済の総合的発展を促進するために制定した綱領的文書で、2010年に海洋産業生産がGDPの5%になることを目標にした指導原則と発展目標を示したものです。

人口一人当たりの自然資源が國際平均以下の中国は、海底の鉱物資源に注目していま す。日本でも、マンガン団塊、コバルト,リッチ,クラフトなどが注目されていますが、中国でも、南シナ海で中国の陸地の石油埋蔵量の半分にも達する"可燃氷"(水と天然ガスの結晶)の埋蔵が確認され、2003年末には、中国海洋石油がカナダのハスキ−社と南シナ海深海油田共同探査に合意しました。領海外でも、中国は既に7万5千平方キロの金属団塊鉱区を確保しています。食料面では、陸の自然環境保護の鍵として海の蛋白源が注目され、2002年には中国の海洋漁業と水産品生産量が世界のトップに躍り出ました。

 国家海洋局長の王曙光氏は「<発展プラン>により、わが国は徐々に海運強国、船舶工業強国、海塩生産大国、海洋観光大国、海洋石油天然ガス資源開発大国になり、最終的には海洋強国になるだろう」と述べていますが、経済発展に海運の果たす役割りが飛躍的に高まっている中国では、日本同様、シ―レ―ン防衛に海軍の増強も大きなテ−マとなっています。この他、水不足に悩む中国では、海水の淡化も大いに期待されているのです。

「日本同様、シ―レ―ン防衛に海軍の増強も大きなテ−マとなっています。」だそうだ。『日本同様』ですか。そうすっと、やっぱ潜水艦も大事ですよね。^^;