パリ不戦条約

パリ不戦条約(ケロッグ・ブリアン協定)という国際的な条約がある。
http://www.sqr.or.jp/usr/akito-y/gendai/27-kyoutyou.html
http://www.tabiken.com/history/doc/P/P333L200.HTM
第一次世界大戦後のベルサイユ体制下、国際協調の機運が高まるなかで作られた条約だ。
今も効力があり、色々な側面で取り上げられる。
第二次世界大戦を防げなかったと批判される面もあるが、現在のEU欧州連合を生み出す基礎になったとも言え、この条約の果たした歴史的な意味は大きい。
既に国際的な条約なので、アジアも無関係ではないのだけれど、まだまだ血肉にはなっていないように感じる。
条約というよりも、本来そういう精神が根ざすことが大事なのだ。

で、この条約についての興味深い補足。

このパリ不戦条約ことケロッグ・ブリアン協定は日本国憲法第9条のモデルにもなった条約ですが、実はこの条約は国際法として正常に機能するには肝心なものが欠如しているのです。それは「侵略についての定義」です。これは国際法に限らず日常で使用される法律にも言える事なのですが、法律を制定する際にはその法の中に記載されている事象に対する定義を定めなければなりません。一例を挙げると、「他人の財物を窃取したる者を窃盗罪とする」という法律を犯した者に対してこの法律を適用するには、法律条文の文言である「他人」「財物」「窃取」の定義をそれぞれ細かく定め、これらの定義に当てはまる犯罪構成要件を被告が満たしていなければなりません。この3つの定義の何かひとつでも欠けていた場合は、法律上、犯罪を構成することにはならないのです。 窃盗罪の場合は「財物の定義」というのがよく法律上問題になっていて、一昔前には電気窃盗の際の「電気」が「財物」と定義できないために「電気窃盗が犯罪にならない」という事が問題になりましたし、最近ではコンピュータのデータ盗難の際の「コンピュータのデータ」がこの「財物の定義」に引っかかりました。このように、法律を適用する際には、法律の条文内容についてひとつひとつ「定義」を定めておかなければならないのです。 この事を踏まえた上でケロッグ・ブリアン協定に話を戻すと、ケロッグ・ブリアン協定がまともに機能するためには、当然の事ながら条文の中で禁止している「侵略」についての定義が必要になります。ところが「侵略」という文言ほど、よく悪しきイメージで使われるにもかかわらず、完全な定義ができないシロモノはありません。 「侵略の定義」については、一応1974年の第29回国連総会によって次のように定義されはしましたが……。1.他国の領域の攻撃、侵入、軍事占領、全部又は一部の併合。2.他国の領域への砲撃や兵器の使用。3.港や沿岸の封鎖。4.他国の陸海空軍、商船隊、航空隊への攻撃。5.他国領域にある軍隊を受入国との協定に反して使用し、又は協定期限を越えて  その領域における駐屯を延長すること。6.第三国侵略のため他国が自国領域を使用するのを容認する行為。 ちなみにここで決められた「侵略の定義」は、国際連合安全保障理事会が侵略行為の是非を決め、武力行使を含めた制裁を発動することができるため、どうしても「侵略の定義」が必要になってきたがために制定されたものです。安保理に勝手に「侵略」を裁定されてはたまったものではありませんから。 しかしこの定義では、実際問題として全く「侵略」と判定できない事態が多く発生します。たとえば北朝鮮日本海へのミサイル発射は「2」に該当しますし、日本が在日米軍に対して施設提供や「思いやり予算」などを計上しているのは「6」に抵触します。極めつけは、旧ユーゴスラビアことセルビア共和国に対するNATO軍の空爆は、安保理の決議が行われないまま始められたので、ユーゴ空爆を行ったNATO諸国は「1」から「6」全てに違反している事になります。しかしこれらの行為は本当に「侵略」と定義できるものなのでしょうか? すくなくとも、これらの「侵略行為」に基づいて安保理が何らかの制裁を決議したという話は聞いた事がありません。 このように、法律制定の過程で「侵略の定義」を定め、それに基づいて「侵略の罪」を裁くなど、現実問題として絶望的に困難であると言わなければなりません。「侵略」という判定は元々が自国を攻撃された国の、侵攻してきた相手国に対する主観的・相対的な評価でしかなく、しかもその時点での価値観・政治情勢・国家関係・大義名分・占領行政の評価などによってひとりひとりの評価も全く違ってくるものなのですから、確固たる法律で「これが侵略の定義である」と規定するなどほとんど不可能なのです。 ケロッグ・ブリアン協定にはこの肝心要の「侵略の定義」が全く定められておらず、しかも自衛戦争などの戦争は「合法」として認められたため、法律的には完全なる「死に法」であると言っても過言ではなかったのです。こんなシロモノで「日本の侵略の罪」なるシロモノが勝手に裁かれてはたまったものではありません。田中芳樹も意味不明な「侵略の定義」を振りまわす前に、もう少し法律的知識を勉強した方が良いんじゃないですかね。 ちなみに国際法を蹂躙して行われた「勝者の私刑」と言われる東京裁判において「日本が侵略国家である」と勝手に裁定させたマッカーサーでさえ、朝鮮戦争後の上院の委員会において「日本が戦争を始めたのは自衛のための戦争であり、東京裁判は間違いであった」と証言しているのですけど、これでも日本は「侵略国家である」と裁定されなければならないというのでしょうか?