文世光事件に関して2件

勝谷誠彦の××な日々。」より

そんな私が14歳の時に起きたのが文世光による朴正熙大統領暗殺未遂事件である。事の衝撃もさることながら子ども心に残っているのがそのあとの韓国政府による執拗な謝罪要求の「嫌な感じ」であり日本国の屈辱的な外交姿勢であった。一連の出来事が私の中のある価値観の確立に寄与したことが今となってはよくわかる。その文世光事件の外交交渉の全貌が明らかになった。http://www.asahi.com/politics/update/0120/004.html。韓国政府が日本との断交まで視野に入れ米国政府まで巻き込んで圧力をかけつづけたとの内容である。言うまでもなく当時の朴政権はガチガチの反共であっていわば日米とは運命共同体であった。それを壊してまでここぞとばかり日本の弱みにつけこむところに日韓の宿痾と言うべき民族的憎悪が読み取れる。笑うしかないのがはるかにマイルドながらも現在の六カ国協議に同様な感情か持ち込まれていることだ。こういうときこそ日米韓は団結しなくてはいけないのに盧武鉉はどこの国の味方だかわからない言動を繰り返す。病気は直らないのだ。重要なことを書く。文世光事件での韓国の日本に対するヒステリックなまでの反発が実は拉致犯罪を生み出したという指摘があるのだ。発売中の『文藝春秋』はオカルト雑誌に堕したと書いたが(笑)他の読み物はいずれも秀逸である。その中の奥野修司さんによる『横田めぐみさん「空白の9884日」』をぜひ併せ読んでほしい。文世光事件での韓国の反日ヒステリーを見た金正日が日本人化した工作員を使って韓国でテロを起こせば朴政権と日韓関係の双方に楔を打ち込めて一石二鳥であると考えたと奥野さんは指摘する。その通りであろう。実に拉致問題の淵源は文世光事件と噴出した日韓の底流に流れる互いの憎しみにあったのだ。それを利用する卑劣さこそが金豚の真骨頂と言えるだろう。「統一朝鮮」がどういう国家となるか。今回の公開された文書を私たちはよく分析すべきである。

梁石日さんの視点

「文世光事件」をテーマにした小説「死は炎のごとく」の作者で、自身も大阪生まれの在日韓国人である作家、梁石日さんのコメント。

 ◇背後に大きな力感じる なぜ暗殺計画 なぜ警備突破…いまだ謎

 1974年8月15日、ソウルの国立劇場で行われた「光復節」(日本の敗戦で植民地から解放された8月15日を記念する祝日)の式典で在日韓国人2世、文世光(当時22歳)が、演説している朴正煕(パクチョンヒ)大統領を狙撃。朴大統領は無事だったが、壇上にいた陸英修(ユクヨンス)大統領夫人が頭を被弾して死亡した。文世光はその場で逮捕され、裁判にかけられて、その年の12月20日に死刑執行された。大法院(最高裁)の判決から死刑執行までの期間があまりにも早いので、さまざまな憶測を呼んだが、死人に口なしで、事件の真相は謎のまま今日に至っている。

 そして、30年後の1月20日、韓国政府は外交文書を公開した。1月20日の毎日新聞夕刊の記事と、外交文書の概要の一部(全体は3000ページに及ぶ)を読むと、朴大統領暗殺未遂事件によって、日韓両国の外交関係が齟齬(そご)をきたし、重大な危機に直面していたことがわかる。

 しかし、公開された概要の一部の文章を読む限り、文世光がなぜ朴大統領の暗殺を計画するに至ったのかという経緯はわからない。

 当時、日本の新聞、雑誌、テレビは朴大統領暗殺未遂事件を大々的に取り上げ、精力的な取材をしていた。朴大統領狙撃に使われた拳銃は、大阪市のある交番から奪取されたものだった。では、拳銃はどのようにして交番から盗まれたのか。交番から奪取された2丁の拳銃のうち1丁は、文世光の家の天井裏から発見されたが、これも不自然である。

 文世光は総連(在日本朝鮮人総連合会)の幹部と接触し、朴大統領暗殺の指令を受けていたと言われているが、これも確証はない。そして、もっとも不可解なのは、空港や国立劇場の厳重な警備をどのようにしてくぐり抜けて、拳銃を持ち込んだのか、などの点については不明なのである。

 私は2001年1月に文世光事件を下敷きにして『死は炎のごとく』という小説を毎日新聞社から刊行し、現在、『夏の炎』というタイトルで幻冬舎文庫に入っている。

 当時、韓国の民主化闘争は、朴正煕軍事独裁政権と真っ向から対立していた。その民主化闘争を在日韓国青年同盟は支持していた。

 しかし、日本での行動には限界があり、挫折してゆく。そんな中で文世光は朴大統領を暗殺することで、状況を変えようと思ったに違いないが、外交文書でも指摘されているように計画は「予期」されていたのである。

 にもかかわらず、暗殺事件は実行される。なぜか?

 その背後には、見えざる大きな力が、働いていたのではないか。その大きな力とは、端的に言えば、アメリカ、韓国の内部勢力、北朝鮮、日本の思惑に文世光は翻弄ほんろう)されたのではないか、と私は考えている。

 しかし、外交文書が公開されても、文世光事件の全容はいまだに謎なのである。3000ページに及ぶ外交文書の中に、文世光事件の真実がつまびらかになることを期待している。